はしかとは

 今回は予定を少し変更して、はしか(麻疹)についての基礎的な知識についてまとめてみます。結局個人的メモのようなものになってしまいましたが…

はしか(麻疹、measles)とは

・麻疹ウイルスによって起こる感染症です。
・ウイルスの感染力はとても強く、はしかに対して免疫の無い集団内で一人の発病者がいる場合、同様の条件ではインフルエンザが1〜2人であろうことに比較して、はしかは12〜14人に感染が拡がるとされています。
・伝染力が強く、初感染時には不顕性感染はなく必ず発症し、一過性に強い免疫不全状態を生じます。このため、ウイルス性肺炎と同時に細菌性肺炎など、二重の合併症をおこすこともあります。
・年齢別では、2009年第1〜24週の時点で「1歳69例(17.0%)、2〜4歳43例(10.6%)、10〜14歳39例(9.6%)、0歳および15〜19歳37例(9.1%)、35〜39歳35例(8.6%)、20〜24歳34例(8.4%)」となっています。

http://idsc.nih.go.jp/idwr/douko/2009d/img24/chumoku05.gif

・ちなみに、2008年のはしか患者報告数は約11005、2009年は741でした。多くは触れませんがノロウイルス感染症の様に昨年は減少していますねぇ。

感染経路

・基本的にインフルエンザの様に、咳やくしゃみによる唾の飛沫を介してヒトからヒトへ伝播します。ただし接触感染、飛沫核感染(空気感染)もみられるようです。
・ドアノブなどに付着したウイルスは、2時間ほどで死滅するといわれています(インフルエンザウイルスより短い)。

ウイルスの感染の流れ

・カタル期(後述)の感染者の、咳の飛沫や鼻汁などを介して気道、鼻腔及び眼の粘膜上皮に感染し、2〜4日間はその場所で増殖します。その後リンパ球やマクロファージに感染してリンパ節に運ばれ、そこで更に増殖します。
・ウイルスはその後、白血球に感染したままで血流中に入り、それが第一次ウイルス血症をきたします。この時期のウイルス感染はまだ侵入場所付近に限られていますが、やがて全身のリンパ節に広がり第二次ウイルス血症を生じます。

症状

・症状は感染後に潜伏期間10〜12日を経て発症します。
・症状別に、大きく以下の3つの時期に分けられます。


《前駆期(カタル期)》
・潜伏期間から38度前後の熱が2〜4日続いた時期を指します。この時期は前駆期(カタル期)とよばれ、他人に最も感染しやすい時期とされています。
・具体的には38℃前後の発熱が2〜4日間続き、更に倦怠感、不機嫌、上気道炎症状(咳嗽、鼻漏、くしゃみ)と結膜炎症状(結膜の充血、目やに、羞明など)が現れ、次第に増強していきます。
・乳幼児では下痢や腹痛を伴うことが多いようです。
・発疹の1〜2日前ぐらいに、口の中、特に奥歯の近くの頬に、はしかに特徴的なコプリック斑という小さな白い発疹がみられます(ここは国試に出ます)

《発疹期》
・カタル期の発熱が1℃くらい引いたあと、約半日のうちに再度高熱となります。多くは39.5以上の高熱で、それに合わせてはしか症状の特徴の一つである赤い発疹が、首周りから全身にかけて広がります。
・結果的に、発疹範囲の拡大に合わせて、高い発熱が3〜4日続くことが多いようです。

《回復期》
・発疹期の熱が引いたあとの時期を指します。
・体力も次第に戻り、合併症がなければ7〜10日後に回復します。

他人に感染する可能性のある時期

・患者の気道からウイルスが分離されるのは、前駆期(カタル期)の発熱時に始まり、発疹の出る時期を最高として次第に減少し、第5〜6発疹日以後(発疹の色素沈着以後)は検出されません。この間に感染力をもつことになります。
・はしかは学校保健安全法による第二種伝染病に分類されており、出席停止期間の基準は解熱した後3日を経過するまでです(学校保健安全法第19条と施行規則)。

合併症

・肺炎⇒ウイルス性、細菌性、巨細胞性
・中耳炎
喉頭炎、喉頭気管支炎
・心筋炎
脳炎、亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)
・細菌性肺炎を合併している場合は別ですが、ウイルスが原因ですのではしかに対して抗菌剤は効きません。症状に対して、必要に応じて医療介入を行う対症療法となります。

合併症の数

1999(平成11)〜2000(平成12)年大阪麻疹流行時の麻疹罹患者における合併症者(2001(平成13)年度大阪感染症流行予測調査会報告)より

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/11/s1112-6e.html

 上記は平成11年から12年にかけて、大阪ではしかが流行した時に報告された合併症とその割合です。3割を超える人に何らかの合併症があり、特に肺炎がおよそ半分を占めています。米国CDCによる(通称pink bookというらしいですが)ワクチンで防げる病気の疫学と予防についての本によると、多いものから順に下痢、中耳炎、肺炎…となっています。少ないながらも脳症や死亡例も報告されています。
 上にも書きましたが、肺炎はウイルス性のものと細菌性のもの、両方になる場合もあり、はしかによって命を落とす原因の一つです。

 合併症の中でも特に長い名称がついている亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)は、麻疹に感染した人が、発症から年単位の時間を経て罹患する病気です。はしかの合併症総数に占める割合は100万人に対して10例前後とのことで少数ではありますが、疾患自体は予後の悪い病気で、現在難病の一つとして公費補助対象になっています。
 また、SSPE青空の会という患者会も、日本国内で活動なさっています。

予防

感染症に共通するうがい、手洗いも無駄ではないですが、冒頭に書いたとおり非常に感染力の強いウイルスですので、はしかを予防するためには予防接種をうけることが重要となります。幸いなことに麻疹ワクチンは効果が高いので、強力な盾になります。

1999(平成11)〜2000(平成12)年大阪麻疹流行時調査における麻しんワクチンの効果(VE)(2001(平成13)年度大阪感染症流行予測調査会報告)より

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/11/s1112-6e.html

 上記の表は左から調査総数、予防接種未接種群での患者数、接種群での患者数、ワクチン効果推定率となっています。前述のpink bookでは、効果は95%(90〜98%の範囲)と推定されています。
・効果は高いワクチンですが、
1)1回だけではどうしても時間が経つにつれて免疫力の減少がみられること
2)体調の都合などで1回目の接種をうけることができなかったお子さんを補助すること
3)初回の接種で免疫を獲得できなかったお子さんを補助すること
 を目的として、現在はトータル2回接種が国をあげて勧められています。

次回予告

 次回は、できるだけ早急に
・麻疹ワクチンの副反応について
・はしかの予防接種って結局どうなの?
助産師さんの言っていることの正当性について
 触れたいと思います。

参考・引用文

http://idsc.nih.go.jp/iasr/30/348/tpc348-j.html
IASR(病原微生物検出情報)Vol.30 No.2(No.348)February 2009(国立感染症研究所 感染症情報センター)
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/b-measles.html
予防接種の話 麻疹(国立感染症研究所 感染症情報センター)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/11/s1112-6e.html
麻疹の現状と今後の麻疹対策について(国立感染症研究所 感染症情報センター)
http://idsc.nih.go.jp/iasr/30/348/dj3481.html 
0歳児における麻疹の発生状況および免疫保有状況 IASR(病原微生物検出情報)Vol.30 No.2(No.348)February 2009(国立感染症研究所 感染症情報センター)

http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/002_i.htm
難病情報センター
http://sspeaozora.web.fc2.com/
SSPE青空の会