公衆衛生

 新型インフルエンザの感染拡大が騒がれている昨今ですが、感染症の重要な予防対策のひとつに『予防接種』があります。ほとんどの方は、お父さんお母さんに連れられてお役所などへ行き(痛い?)注射をされた経験があると思います。どうやらあまり予防接種を良く思わない方々も少なからずいるようですが、これが死を防ぐ唯一の手段と言っていい病気も、未だ身近に存在します。

 そんな大切な予防接種ですが、この行為のおおもとには「公衆衛生」という概念が存在します。はてブのタグで使ってらっしゃる人もいるようです(自分もそうだけど)。ただ、普通に生活する上では、仕事等が関係しないかぎりあまり縁がない気がします。そもそも、公衆衛生にはどういう意味があるのでしょうか。

公衆衛生の考え方と身近な問題の関連性については、どらねこ日誌さんのエントリが秀逸です。
こちらでは公衆衛生の概念について、雑記程度にまとめてみます。

公衆衛生の意味

 みたままですが、公衆衛生とは:
地域社会の人々の健康の保持・増進をはかり、疾病を予防するため、公私の保健機関や諸組織によって行われる衛生活動〔大辞泉
のことです。これには、後で触れますが我々の健康をまもる各種保健活動が含まれています。

 日本では、「衛生」の概念が確立されるまで、「養生」という言葉を使っていました(貝原益軒「養生訓」1703年)。「養生なさい」なんて、最近あんまり聞きませんね。別に緑色のテープを張ったりするわけではなく、養生とは生を養い、人間の身体を整える、というような意味がありまして、例えば上記の「養生訓」には、食べ物や睡眠時間から、夫婦生活(余計なお世話だ)、部屋の向き(これも余計な略)まで、どう暮らせば健康を保ち、人生を楽しむことができるかが詳しく書かれています。現代語訳もググるとすぐ出てきますので、興味のある方はご参照下さい。
 ただこの養生訓は、基本的に個人の生活に対してのアドバイスであります。後述の、西洋から導入された所謂衛生の語源である「hygiene」とは若干視点が異なるようです。

 明治時代になって、「hygiene」の考え方が西洋医学全般とともにドイツから入ってきました。英語では生命や生活を守る概念として使われている「hygiene」は、健康への個人の心構えや習慣以上に、たとえば上下水道の整備など、よい生活環境を整えるための社会的な対策が基になっているようであります。産業革命後の都市の、生活環境悪化に伴う伝染病対策として、健康に関わる環境整備の視点が重要視されたのは必然の流れでありますね。
 疾病対策には疫学も関わってくるのですが、まとめきれなさそうなので別の機会に…
 というわけで、「hygiene」の訳語として、日本語の「衛生」が採用され、19世紀後半にドイツでできあがった衛生学を我が国はとり入れたのであります。このドイツ的衛生学は、第二次世界大戦まで主に用いられました。後にGHQが来日したのと同時に、今度はアメリカ流の公衆衛生学がもたらされ、占領政策の一環として日本の医学教育に組み込まれました。そして現在に至ります。
 日本の公衆衛生は、戦後最低の衛生状態から、世界有数の長寿国になる現在まで、まさに国の発展を支えた最も大きな柱でありました。

 ウィンスロー*1(C.E.A. Winslow; WHO)は1949年に、「公衆衛生は、共同社会の組織的な努力を通じて、疾病を予防し、寿命を延長し、身体的・精神的健康と能率の増進をはかる科学・技術である」と定義しています。その内容としては、環境保健、疾病予防、健康教育、健康管理、衛生行政、医療制度、そして社会保障があげられていて、学問というより実践的活動そのものが重要視されています。
 ここで重要なのは、"共同社会の組織的な努力を通じて"と"科学"という言葉です。個人単位ではなく、ましてや国だけでもなく、あくまでも社会に住む人々や、そこに存在する組織全体の努力をもって、更に科学的な方法にて健康に結び付けようとする活動が公衆衛生なのです。

まとめ:公衆衛生とは

 集団の健康を保持・増進するための科学的で具体的な考え方、技術、活動のこと。

そして予防接種へ

 「みんなでみんなの健康のこと」を「科学的に」考えるのが公衆衛生で、私達の健康を害する病気のいち予防活動として予防接種があります。のちほど、予防接種の意味や重要性、実施にあたって解決すべき課題などについて書いてみようと思います。いつになるかな…

参考
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E8%A1%86%E8%A1%9B%E7%94%9F
衛生学・公衆衛生学 南江堂
国民衛生の動向2008

*1:WHO(世界保健機関)の偉い人アメリカの公衆衛生学者