予防接種について【追記あり】

 感染症予防のための予防接種が含まれる、公衆衛生の歴史と意味については前回(ほんの少しだけ)触れました。今回は、日本の予防接種制度に関わる法律と、その内容について考えてみます。記載内容に間違いがないよう注意してはおりますが、もしありましたらご指摘頂けると幸いです。
 ところで、日本で初めてなされた予防接種は痘瘡(天然痘)であったといわれています。肉も美味いし牛乳も飲めるし牛さん様々ですね。

予防接種法

 予防接種は日本において、予防接種法という法律にその内容が記載されています。

 第一章 総則
第一条 この法律は、伝染のおそれがある疾病の発生及びまん延を予防するために、予防接種を行い、公衆衛生の向上及び増進に寄与するとともに、予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする。
(平六法五一・一部改正)
第二条 この法律において「予防接種」とは、疾病に対して免疫の効果を得させるため、疾病の予防に有効であることが確認されているワクチンを、人体に注射し、又は接種することをいう。

 第二条で、予防接種の定義を「疾病に対して免疫の効果を得させるため、疾病の予防に有効であることが確認されているワクチンを、人体に注射し、又は接種すること」と定めています。前回触れた公衆衛生の定義は

公衆衛生は、共同社会の組織的な努力を通じて、疾病を予防し、寿命を延長し、身体的・精神的健康と能率の増進をはかる科学・技術である

http://d.hatena.ne.jp/Temper/20090512/1242136481

です。予防接種は疾病の予防に有効であることが(科学的に)確認されている方法であるから、公衆衛生対策として認められており、一国の法律にもなっている、と言えると思います。逆に言えば、病気に対して有効だという効果が適切な方法で研究され、認められなければ、予防接種のリストには入らないということです。

定期予防接種と任意予防接種

 現在日本には、生後三ヶ月から始まる定期予防接種(設定された期間内に接種すれば全額公費負担)と、定期以外に個人の任意でワクチンを接種する任意予防接種の2つの予防接種方法があります。国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)から、詳しい接種スケジュールをみることができます。

定期予防接種

 法律では、定期予防接種のワクチンの項目は第一章第二条第二項で

2 その発生及びまん延を予防することを目的として、この法律の定めるところにより予防接種を行う疾病(以下「一類疾病」という。)は、次に掲げるものとする。
一 ジフテリア
二 百日せき
三 急性灰白髄炎
四 麻しん
五 風しん
六 日本脳炎
七 破傷風
八 結核
九 前各号に掲げる疾病のほか、その発生及びまん延を予防するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病

第三項で

3 個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資することを目的として、この法律の定めるところにより予防接種を行う疾病(以下「2類疾病」という。)は、インフルエンザとする。

と定められています。
 上記の通り、定期接種には「病気にかかることやその病気が拡がることを防ぐ」一類疾病というものに指定される病気と、「個々人が病気にかかったり、かかっても重症にならないようにして」しかも「その病気が拡がることを防ぐのに役立つよう、予防接種を行う」二類疾病*1というものに指定される病気の二つが定められています。結核の予防接種であるBCGは、もともと結核予防法で予防接種を行うこととされていましたが、現在は予防接種法の一類疾病に指定・実施されています。

任意予防接種

 定期接種以外に、日本国内で接種できるワクチンには主に
Hibワクチン
・肺炎球菌ワクチン
・インフルエンザワクチン
・水痘ワクチン
・おたふくかぜワクチン
A型肝炎ワクチン
B型肝炎ワクチン
などがあります。
 話は少し脱線しますが、上記のうち、こどもの細菌性髄膜炎の原因となるHib(インフルエンザ菌b型)ワクチンは2008年末に国内で認可され、大々的にメディアに取り上げられたのでご存知の方もいるのではないでしょうか。IDSCによると、平成18年に報告された感染症発生動向調査に基づく細菌性髄膜炎の患者数は国内350人で、届出があった患者の約40%がHibによる髄膜炎であったそうです。致命率も約5%と高く、発育障害などの重い後遺症を残すことも少なくない病気で、ワクチン接種が唯一の予防方法であるといわれていますが、悲しいことにワクチンの接種率はおろか、供給量すら十分ではありません。加えて、1人あたり全4回のワクチン接種で3万円と少々高額な費用もかかります(Hibワクチンの認可やドラッグ・ラグについては、こちらマニフェスト工房さんに非常に詳しく紹介されています)。一部自治体ではお金の補助をしているお役所もあるそうですが、一刻も早いワクチン確保と、公的な費用助成制度の整備が望まれるところです。

次回予告(案)

 予防接種法に規定されている定期接種と任意接種、そしてワクチンの種類を確認したところで、定期と任意の違いや問題点についてみていこうと思います。

*1:現在定められているインフルエンザワクチンは65歳以上の方に対してと、60歳以上65歳未満の方で、心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能又はHIVによる免疫の機能に障害を有するものとして厚生労働省令で定めるもの【09/08/25追記】